を向けてきた。 |
を向けてきた。 かれのいう説得とは、副長にたいしてだけではない。俊冬にたいしても、である。 ってかんがえそうになり、また蟻通に後頭部を叩かれた。 「いいかげんにしてください。馬鹿になるじゃないですか」 「ならば、案ずる必要はなかろう?」 蟻通にクレームをいれると、ソッコーで返されてしまった。 「秘密にしていないで教えてくださいよ」 田村がねだってきた。 かれは、そういう秘密ごとは全力でききだしたいっていうタイプらしい。 大人たちは、たがいにをかわしあった。 たしかに、島田のいう通りである。 副長は、なんだかんだといいつつ子どもらのことを大切にしている。行動にだすことはないが、年齢のはなれた弟みたいな存在なんだろう。 その子どもらに説得してもらえば、副長も耳を傾けてくれるかもしれない。 そして、それは俊冬にもいえることである。 かえって俊冬のほうが有効かもしれない。 市村も田村も俊冬のことが大好きである。おそらく、副長よりも好きなはずだ。 まとわりつかれでもすれば、俊冬も邪険にはしないだろう。 どちらも、大人が説得するよりかはよほど効果がみこめそうだ。 Botox瘦面 を感じた。 俊冬がじっとみている。 副長まんまのに、いまさらながらどきりとしてしまう。見分ける方法は頬の傷と、側でじっとみたら肌の艶とか皺とか俊冬のほうが若いだけにいいというくらいか。 その瞬間、また後頭部を叩かれた。 「よくそこまでかんがえたり思ったりできるものだな」 蟻通に呆れ返られているが、仕方がない。 それがおれなんだ。 そう開き直ることにした。 ふと、 結局、蟻通とのアイコンタクトで市村と田村に告げることに決めた。 弁天台場から物資の補給をしに、中島と尾形と尾関が戻ってくるという。 かれらも交え、話をした方がいいという結論にいたった。 副長は、榎本など箱館政権のお偉いさん方に二股口と木古内の状況を伝えにいっている。 最近、榎本らお偉いさんたちは五稜郭にいることがおおい。 結局、敵軍の侵攻を止められずに箱館から五稜郭に移り、ここで終戦をむかえることになる。 かれらは、五稜郭が最終の地であるとすでに予測しているのかもしれない。 それは兎も角、副長は、たかだか報告のくせに一人では心細いらしい。同道するよう、島田と俊冬と俊春に命じた。 が、俊春はすこしでも体を休めなければならない。 この後、かれはおれたちの何千倍も働かなければならないからである。 ゆえに、副長は島田と俊冬を連れていった。 正直なところ、島田にはいってほしくなかった。 おれたちをまとめてもらわねばならないからである。 が、かれをムダにひきとめると、副長に気づかれるかもしれない。それに、俊冬の見張り役も必要である。 島田には申し訳ないが、イケメンズの面倒をみてもらうことにした。 ちなみに、俊春の体を休めるというのは方便である。 俊冬は、副長にうながされて榎本の部屋にいきかけた。が、そのタイミングで俊春にメンチ切った。 「メンチ切る」とは、にらみつけるという意味である。 俊春もメンチ切り返した。 いつもは俊冬にたいして従順なかれが、最近はずいぶんと強気である。 それほどまでに精神的に追い詰められているのかもしれない。 厩は、安富にとって聖域である。 ここ五稜郭のかなりこじんまりしている厩も、すでに安富とかれのお馬さんたちの甘い巣になっている。 もちろん、厩にはほかの隊に所属しているお馬さんたちもいる。 かれは、一手に面倒を引き受けているのである。 というわけで、厩でミーティングをすることにした。 厳密には、厩のまえに木箱をいくつも並べ、そこに座ることにした。 いわゆる青空会議ってやつだ。 俊春とおれとで「ザ・コーヒー」を淹れた。 もう残りもすくないらしい。 牛乳は、ヤバそうである。 冷蔵庫がないし、日持ちするようになんらかの加工もされていない。 ヤバくなるのも当然であろう。 俊春は、こちらが不安になるほど牛乳のにおいを嗅ぎまくっている。 「大丈夫」 永遠ともいえるほどの時間の経過のあと、かれはそう判断をくだした。 「大丈夫って、あれだけにおいを嗅いでいるって時点ですでにヤバし、だろう?本当に大丈夫なのか」 思わずツッコんでしまった。 「Probably」 「いや、マジで大丈夫なのか?」 「Maybe」 「おいおい、なんか確率下がってないか?もう一度きくけど、大丈夫なんだろうな?牛乳って賞味期限内でも体調によったらお腹ごろごろ、ぴーぴーになることがあるんだぞ」 「Possibly」 「はああああ?大丈夫度が十パーセント程度まで下がったぞ」 「冗談だよ。やめておこう。そのかわり、砂糖を大量にいれればいい」 たしかに、その方が無難だ。 でがらしみたいなコーヒーに砂糖をおおめにいれたものと、カステラがあったのでそれとを添え、全員に配った。 市村と田村は、すでにコーヒーとは呼べぬちょっと色のついた白湯イン砂糖を、よろこんで吞んでいる。ほかの者も、こんなものかってな感じで吞んでいる。
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